水害取材の現場において、被災者が口を揃えて語るのが「まさか自分の家まで水が来るとは思わなかった」「まだ大丈夫だと思い込んでいるうちに外に出られなくなった」という後悔の言葉です。災害心理学ではこれを「正常性バイアス」および「同調性バイアス」と呼びます。周囲の住民が避難していないから自分も平気だと錯覚し、避難行動を先送りにしてしまう心理的トラップです。
善福寺川のような中小河川は、利根川や荒川のような大河川と異なり、雨が降ってから水位がピークに達するまでの時間が極端に短い「フラッシュフラッド(鉄砲水的な増水)」の特徴を持ちます。警戒レベルが発令されてから迷っている猶予はありません。以下の基準に従い、明確な意思決定を行ってください。
立ち退き避難(避難所へ移動)を直ちに選ぶべき人
- 川沿いの低地にある木造戸建て住宅の1階に居住している世帯
- 地下室、半地下構造の部屋、または傾斜地の底にある物件に住んでいる人
- 自力での迅速な移動が困難な高齢者、乳幼児、要介護者が同居している家庭
- 近隣に急傾斜地があり、増水に伴う法面崩壊やがけ崩れのリスクを併せ持つ立地
自宅内での「垂直避難(2階以上へ移動)」を選択すべき人
- 鉄筋コンクリート造(RC造)マンションの3階以上に居住している人
- すでに外の道路冠水が始まっており、水深が足首を超えて濁流と化している状況(屋外移動はマンホール転落や流失の危険が極めて高いため命取りになる)
- 夜間の停電下で視界が完全に奪われており、避難所までの経路にアンダーパスや低地が含まれている場合
避難とは「避難所へ行くこと」だけを指すのではありません。「難を避ける」こと、すなわち現在地より高い安全な場所を確保することこそが本質です。ライブカメラで川の表情が変わり始めたら、その時点で夜間であれば2階以上で就寝する、貴重品や防災リュックを上層階へ移動させるなど、即座に行動を起こすことが生死を分けます。