家庭内での使い分けにおいて、知識不足が決して許されないのが「乳幼児に対する安全性」のテーマです。特に離乳食期の子どもを持つ保護者が絶対に把握しておかなければならないのが、乳児ボツリヌス菌危険性です。
厚生労働省や各自治体の保健センターが一貫して警告を発し続けている通り、「1歳未満の乳児にはちみつを絶対に与えてはならない」という原則は鉄則です。自然界の土壌や花粉に存在するボツリヌス菌(Clostridium botulinum)は、耐久性の高い「芽胞(がほう)」を形成します。大人の成熟した腸内環境であれば、他の腸内細菌叢との競合により菌が増殖することなく体外へ排出されますが、腸内細菌叢が未発達な生後1年未満の乳児の体内に入ると、腸管内で芽胞が発芽・増殖し、強力な神経毒素を産生します。便秘や筋力の低下、哺乳力の減退、重篤な場合は呼吸麻痺を引き起こし、過去には国内でも死亡例が報告されています。
ここで重要なのが、「ボツリヌス菌の芽胞は、通常の家庭調理における100度の加熱殺菌では死滅しない」という点です。焼き菓子や煮込み料理の隠し味としてはちみつを加熱調理した場合でも毒素産生リスクは残存するため、いかなる形態であっても1歳未満への摂取は禁止されています。
一方、カナダ産純粋メープルシロップの製造工程ははちみつと全く異なります。採取されたカエデの樹液は、糖度を66度以上に凝縮させるため、専用の蒸発釜で数時間にわたり104度以上の高温で連続加熱・濃縮されます。この製造工程と高糖度環境、さらに土壌ではなく樹木上部から採取される特性から、純粋メープルシロップにおいてボツリヌス菌のリスクが問題視された事例は基本的にありません。離乳食中期(生後7〜8ヶ月頃)以降、風味付けやアレルギー配慮の天然甘味料として極少量から導入されるケースが多いのはこのためです。ただし、甘味への偏好形成を防ぐ観点から、乳児期における積極的な多用は避けるべきというのが小児栄養学の共通見解です。