インターネット上や職場内において、「熱中症対策はとにかく水分をたくさん摂ること」という常識が長年信じ込まれてきました。しかし、この画一的なアプローチこそが、かえって再発を誘発する最大の盲点となっています。
人間の体内では、水分だけでなくナトリウムやカリウムといった電解質(ミネラル)が緻密な浸透圧バランスを保っています。大量に汗をかいた状態で、純粋な水やお茶、あるいは電解質濃度の極めて低い清涼飲料水を一気に流し込むと、血液中のナトリウム濃度が急速に薄まります。すると身体はこれ以上の濃度低下を防ぐため、浸透圧を正常に戻そうとして喉の渇きを止め、尿として水分を強制排出してしまう現象が起こります。これがいわゆる「自発的脱水」です。
結果として、本人は「2リットルも飲んだから大丈夫」と思い込んでいるにもかかわらず、脱水症状と電解質バランスの破綻は水面下で進行し、数時間後に激しいめまいや筋痙攣を引き起こすことになります。特に再発を繰り返す人ほど、この自発的脱水のメカニズムを理解せず、水ばかりをがぶ飲みして内臓を冷やし、胃腸の吸収機能を低下させている傾向が顕著です。
ここで知っておくべき決定的な知識が、経口補水液の正しい飲み方です。経口補水液(ORS)は、水と電解質が小腸で最も速やかに吸収されるよう、ナトリウムとブドウ糖の比率が厳密に計算された「飲む医療用点滴」です。市販のスポーツドリンクとは目的が根本から異なります。
経口補水液は、一度に500mlを一気飲みしても吸収しきれず、腎臓から尿として排出されてしまいます。正しいプロトコルは、「常温に近い状態で、1回あたり100〜150ml程度を、10〜15分おきに噛むようにゆっくり飲む」ことです。また、平熱時や室内で安静にしている時に予防目的で大量に飲み続けると、高血圧や腎臓への負荷につながるため、発汗量や疲労度に応じた適切な使い分けが求められます。