ネット上で長年囁かれる「米軍の台風情報は気象庁より数日早い」という評判は、単なる印象論ではなく、運用上の明確な事実に基づいている。その最大の要因は、JTWC米軍台風情報が観測対象とする「台風の定義」と「追跡の開始タイミング」にある。
気象庁(JMA)は世界気象機関(WMO)の取り決めおよび気象業務法に則り、北西太平洋域で「10分間平均の最大風速が34ノット(約17.2m/s)以上」に達したものを台風(Tropical Storm)と命名・発表する。これに対し、米軍の合同台風警報センター(JTWC)は、米国式の「1分間平均風速」を採用している。短時間の瞬間的なピークを捉えやすい1分間平均は、10分間平均に比べて数値が約1.1〜1.2倍高く算出される特性がある。そのため、同じ擾乱(じょうらん)であっても、米軍のほうが気象庁よりも半日から1日以上早く「台風(基準値超え)」としてプロットを開始するケースが多発するのだ。
さらに米軍は、将来的に台風へ発達する可能性がある雲の塊を「INVEST(投資・調査対象)」としてナンバリングし、熱帯低気圧(Tropical Depression)の段階(例:TC 01Wなど)から5日先までの米軍台風進路予想図を精力的に公開する。一般向けの防災警報としての厳密さを担保するため、基準到達を慎重に見極める気象庁に対し、米軍は「作戦上の早期警戒」を最優先するため、発表スピードに構造的なギャップが生じるのである。
加えて、米軍台風情報更新スケジュールは原則として協定世界時(UTC)の00時、06時、12時、18時(日本時間の09時、15時、21時、03時)の1日4回を基軸としており、急激な発達や変針が認められた場合は中間の時間帯に修正情報(Amendments)が即座にアップロードされる体制が整っている。