『夏目友人帳』に登場する数多くの妖の中でも、ひときわ異彩を放つ存在が「辰未(たつみ)」です。物語は、藤原家の庭先でニャンコ先生が偶然見つけて温めていた正体不明の卵を、夏目貴志が預かるところから始まります。やがて殻を割って誕生した小さなヒナは、卵から生まれたことから「タマ」と名付けられました。
タマの愛らしい外見の裏には、種族としての極めて特殊かつ過酷な生態が隠されていました。辰未とは本来、天を翔ける竜の妖です。しかし、辰未のヒナには「刷り込み」に似た特異な性質があり、卵から孵化した直後に見た者、すなわち養い親に近い姿へと擬態する習性を持っています。そのため、人間である夏目を親として認識したタマは、鳥のような小さな翼や爪を残しながらも、幼児のような人型の姿で育つことになりました。
タマの無邪気な愛らしさに心癒やされる夏目でしたが、ニャンコ先生の口から告げられた辰未の生態はあまりにも過酷なものでした。辰未の肉は類を見ないほど美味であり、その生き血には永遠の若さを得る「不老」の効果があると妖の世界で信じられているのです。自衛手段を持たないヒナの時期は、力を渇望する獰猛な妖たちから常に命を狙われる標的となってしまいます。保護者となった夏目は、傷だらけになりながらもタマを外敵から必死に守り抜く決意を固めます。