『ダッタン人の踊り』の原曲は、ロシア五人組のひとりであるアレクサンドル・ボロディン(1833–1887)が作曲した4幕構成のオペラ『イーゴリ公』の第2幕に登場する劇中舞踊曲です。本職が優れた有機化学の教授であったボロディンは、多忙な研究と教育の合間を縫って約18年もの歳月を費やして作曲を続けましたが、完成を見ることなく急逝しました。現在私たちが耳にする壮麗なスコアは、盟友のリムスキー=コルサコフと若きグラズノフが遺稿を補筆・オーケストレーションして完成させたものです。
物語の舞台は1185年の中世ロシア。主人公のイーゴリ公が南方の遊牧民族「ポロヴェツ(Polovtsy)」に敗れて捕虜となった際、敵将であるコンチャーク汗(ハン)がイーゴリ公を慰め、もてなすために繰り広げる宴の場面でこの踊りと歌が披露されます。敵対関係にありながら互いの武勇を認め合う遊牧民の長と囚われの領主という、極めてドラマティックな心理的交錯が音楽の根底に流れています。