古来、神棚を設置する方角として理想的とされるのは、神棚の正面が南向き、もしくは東向きになる配置です。これには明確な理由が存在します。東は朝日が昇る「命の始まりと再生」を象徴し、南は一日のうちで最も陽光が降り注ぐ「繁栄と活力」を司る方角とされてきたからです。太陽神である天照大御神をお祀りする神道の観点からも、日光の恩恵を十分に受けられる方角が尊ばれてきました。
あわせて配慮したいのが神棚の高さの基準と目線です。神様を見下ろす形になるのは不敬にあたるため、立ってお参りした際に「大人の目線よりも高い位置(床からおよそ180cm〜200cm程度)」が基本ラインとされています。ただし、毎朝のお水や米の交換、榊の取り替えの際に踏み台から転落する危険があるような極端な高所設置は本末転倒です。大人が無理なく手を伸ばせる範囲で、かつ見上げる姿勢を保てる高さを選定するのが現場の鉄則となります。
ここで多くの住まい手が悩むのが、「間取りの都合上、南向きや東向きに壁面を確保できない」という問題です。住宅設計の現場でも、採光用の大開口サッシやエアコンの配置、耐力壁の兼ね合いで北向きや西向きの壁しか空いていないケースが多発しています。この点について、神社本庁関係者や現場の神職に取材を重ねると、次のような見解が一貫して示されます。「方角を気にするあまり、湿気がこもる納戸の隅や薄暗い廊下に南向きで置くことこそが非礼。風通しがよく、家族が毎日感謝の手を合わせられる明るい場所であれば、西向きや北向きになっても全く差し支えない」という事実です。
方角に縛られて生活動線が破綻したり、掃除が行き届かなくなったりすることこそ、神道における「穢れ(気枯れ)」を招きます。方角はあくまでも優先度の高い目安であり、最上位の規範は「明るく清浄で、家族が集う場所」であると理解しておくことが失敗を防ぐ第一歩です。