日本の近代文学において、「叢」は文豪たちの描写力を支える表現として重宝されてきた。とりわけ夏目漱石の『草枕』をはじめとする作品群では、自然描写や心理的な暗濁を表現する心理的風景としてこの漢字が絶妙に配されている。
漱石は、西洋近代の理知的な文体と東洋的な漢学の素養を融合させた独自のスタイルを誇った。『草枕』の作中における「叢」の配置は、描写される植物の密生感だけでなく、主人公の内面に去来する複雑な情緒を視覚的に提示する役割を果たしている。言葉の選択ひとつで紙面の陰影が変わることを、文豪は熟知していたのだ。
現代の読者は、青空文庫のようなデジタルアーカイブやAmazon Kindleをはじめとする電子書籍端末を通じて、明治・大正期のオリジナルに近い表記スタイルでこうした文豪の筆致に容易に触れることができる。画面上で「叢」の文字を目にしたとき、それが放つ独特の情景描写力を味わうことこそ、デジタル時代における文学鑑賞の醍醐味といえるだろう。