冨樫義博氏の真骨頂は、作中に散りばめられた緻密な伏線と構成美だ。軍儀の盤上で繰り広げられた手筋「孤狐狸固(ココリコ)」は、メルエムとコムギの運命を暗示する重層的なメタファーとして機能している。
王として完璧な存在を目指し、自らを「全」と誇っていたメルエムが、コムギという「個」の前に膝を屈する過程。名前すら持たずに生まれた蟻の王が、最期に自らの「メルエム」という名を慈しみ、一人の人間として生を終える劇的な変化。キメラ=アント篇の裏に流れるテーマは、異物への恐怖と受容、そしてアイデンティティの獲得に他ならない。