浜木綿子と香川照之さんの親子関係は、単なる母子の情愛を超えた、互いへの深い敬意と信頼で結ばれています。俳優として頭角を現した香川さんが、40代半ばにして「市川中車」を襲名し歌舞伎界へ挑戦すると決断した際、母の心中には極めて複雑な思いが交錯しました。
かつて自分たち母子を捨てた元夫・猿翁さんが君臨する世界へ、最愛の息子が飛び込んでいくことに対し、当初は戸惑いや苦悩があったことは想像に難くありません。しかし、息子が父との長年の確執を越えて「澤瀉屋(おもだかや)の血脈と芸を息子の團子へ繋ぎたい」という一念を打ち明けたとき、浜木綿子は息子の覚悟を受け止め、その背中を押しました。
2011年に実現した猿翁さんと香川さんの劇的な父子和解の裏には、過去の遺恨をすべて呑み込み、息子の意志を尊重した浜木綿子の途方もない度量と愛情が存在していました。自身が耐え忍んだ過去を恨みで縛るのではなく、次代の未来のために手放したその姿勢は、まさに気高き母の姿そのものでした。