作家・石田衣良が世に出る前、30代半ばで会社員生活に区切りをつけ、無職同然の状態で小説の執筆に没頭していた時期がある。その過渡期を傍らで支えたのが彼の妻だった。彼女自身も自立したキャリアと落ち着いた見識を持つ女性であり、夫が未知の文芸の世界へ飛び込む決断をした際も、感情的にならず静かにその背中を押したという。
二人の出会いは、彼がコピーライターとして広告業界の第一線で戦っていた頃に遡る。多忙を極める日常の中で知り合った二人は、互いの価値観や感性を尊重し合いながら時間を重ねていった。売れない下積み時代にあっても、彼女は決して焦りを見せることなく、家計を守りながら夫の才能を信じ切っていた。この揺るぎない肯定感こそが、著者の文筆業を根底から底上げした最大の土台である。