敵の進行ルートを塞ぐように自軍を横一列に展開する「丁字戦法」。教科書では華々しい必勝パターンとして描かれがちだが、その裏には狂気とも言える泥臭いデータ収集があった。
秋山は、古今東西の古戦場記録から最新の欧米軍事文献までを読破し、あらゆる戦況パターンを7つの基本形に分類した「七段構えの陣」を構築していた。バルチック艦隊が地球を半周して対馬海峡に現れるまでの数ヶ月間、彼は艦隊の移動速度、石炭の消費量、乗組員の疲労度、さらには東シナ海の気象変動まで、想定し得るあらゆる変数を手作業でシミュレーションし続けた。勝因は「奇策」にあったのではない。「徹底的な準備によって運を必然に変えた」ことにある。