この「秘密メモ」の全貌を解明する上で、20世紀後半から現代にかけて決定的な役割を果たしたのが角筆文書の発見である。角筆とは、竹や木、あるいは象牙などを鋭利に削った筆記具のことで、インクを一切使わず、紙の表面にくぼみをつけて文字や記号を刻む道具だ。
肉眼では影のようにしか見えない角筆の痕跡は、光を斜めから当てることで初めて浮かび上がる。経典の余白にびっしりと刻まれた角筆によるカタカナの初期形態は、後世の加筆ではなく、まさに9世紀前後の僧侶たちが講義を受けながらリアルタイムで書き残した生々しい記録だった。
光学的解析技術の進歩に伴い、全国の寺院や文庫に眠る古文書から角筆の跡が次々と検出された。これにより、カタカナが一部の特権層による偶然の思いつきではなく、東アジアの漢字文化圏において日本が独自に開発した高度な情報処理システムであったことが実証された。