母親が旧統一教会、現在の世界平和統一家庭連合へ傾倒を強めたのは1990年代初頭だった。夫の死や長男の重病といった過酷な家庭環境の中で救いを求めた信仰は、やがて歯止めの利かない高額献金へと変質する。不動産売却益や身内の遺産、死亡保険金に至るまで、総額1億円以上にのぼる資金が教団側へと流出。家庭の全財産が霧散し、生活破綻を余儀なくされた過酷な実態が、公判の場で生々しく再現されている。
法廷に提出された証拠類が示すのは、山上徹也被告が直面していた出口のない孤立と絶望だ。高校卒業後に自衛隊へ入隊し、自立の道を模索したものの、経済的困窮と家族の不幸という二重苦が重くのしかかった。自らの生命保険金を家族に残そうと自殺未遂まで試みた被告の心理的底流には、宗教への盲信によって家計と家族の未来を破壊した母親への深刻な不信と、巨大な宗教組織を野放しにし続ける社会への強い衝動が渦巻いていた。