日本海の荒波に育まれた水産物の中で、現代の島根を代表する最高峰の味覚が「のどぐろ(標準和名:アカムツ)」です。口の奥が黒いことからその名がついたこの深海魚は、別名「白身のトロ」と称されるほど豊富な脂質を蓄えています。特に浜田港などで水揚げされる大型の個体は、脂質含有量が20%を超えることも珍しくありません。
地元割烹の板前は「良質なのどぐろは、まずはシンプルな塩焼きで脂の融点を感じてほしい」と力説します。炭火でじっくりと炙られた皮目は香ばしくパリッと仕上がり、箸を入れた瞬間に透明な脂が滴り落ちます。身は驚くほどふっくらと柔らかく、口内で上質な旨味へと溶けていきます。一方、鮮度抜群の状態で提供される刺身は、皮目をバーナーで軽く炙る「焼き霜造り」にすることで、皮下の脂の甘味と白身特有の上品な歯ごたえが完璧な調和を見せます。
海と対をなす島根の象徴が、海水と淡水が絶妙に入り混じる汽水湖・宍道湖の恵みです。なかでも「宍道湖のしじみ汁」は、地元民の朝食に欠かせないソウルフードでありながら、科学的にも極めて優れた機能性を持つ逸品です。島根県水産技術センターなどの研究データによれば、宍道湖で獲れるヤマトシジミは、汽水域特有の塩分ストレスに耐える過程で、アミノ酸の一種であるオルニチンや旨味成分のコハク酸を大量に生成します。
地元民が愛するしじみ汁は、大粒の殻から染み出た濃厚な白濁スープに、島根特有の少し甘みのある合わせ味噌を溶いたシンプルな仕立て。貝の身を噛み締めるとぷりっとした弾力とともに濃厚な出汁が溢れ出し、旅の疲れや前夜のアルコールで疲弊した胃腸を優しく癒やしてくれます。