映画監督パオロ・ソレンティーノの名を抜きにして、現代イタリアシネマの革新を語ることはできない。視覚的な美学と人間の滑稽さ、美しさと醜悪さを同列に配置する彼の作品世界において、名優トニ・セルヴィッロはまさに「分身」とも呼べる存在だ。ふたりのタッグはこれまでにも数々の金字塔を打ち立ててきたが、故郷ナポリを背景に据えたときのシナジーは別格である。
トニ・セルヴィッロが画面に現れるだけで、空気の密度が一変する。彼の刻まれたシワの一つひとつ、言葉の間に置かれる静寂のすべてが、ナポリという都市の歴史と呼応しているかのようだ。長年培われたソレンティーノとの信頼関係があるからこそ、即興性と厳密な美意識が共存する奇跡的なテイクが次々と生み出されている。