ベーコンの思索を紐解く上で避けて通れないのが、古代ギリシャの巨頭アリストテレスに対する痛烈な批判だ。中世ヨーロッパの学術界は、アリストテレス的な三段論法、すなわち前提から論理的に結論を導き出す演繹法に固執していた。しかしベーコンは、前提そのものが間違っていれば、いくら論理が正しくても現実の役に立たないと見抜いた。
彼が1620年に発表した主著『ノヴム・オルガヌム』(新機関)は、従来の論理学に対する事実上の挑戦状であった。ここで提示されたのが、個別の事実や観察を地道に積み重ねて普遍的な法則を導き出す帰納法である。
このアプローチは西洋哲学の基盤を揺るがし、頭の中の空論から脱却して現実の観察へと目を向けさせる決定的な契機となった。現代のビジネスにおけるA/Bテストやデータドリブンな意思決定も、この帰納法的思考の直線上に位置している。