事件が起きたのは1977年11月15日の夕方でした。新潟市立寄居中学校でバドミントン部の練習を終えた横田めぐみさんは、友人たちと別れた直後、自宅までわずか数百メートルの暗がりで北朝鮮の工作員によって急襲され、暗黒の海へと連れ去られました。当時13歳、あまりに理不尽で非人道的な拉致の瞬間でした。
北朝鮮が一般市民、それも幼い少女まで狙った背景には、対南(韓国)工作活動に従事する工作員に完璧な日本語や日本の生活習慣を叩き込む「教官役」の確保、さらには工作員自身が日本人になりすます「背乗り(はいのり)」のための個人情報収集という極めて冷酷な国家戦略がありました。
事件直後、警察による大規模な捜索が行われたものの、当時は北朝鮮の関与という発想自体が希薄であり、事件は長年「行方不明」として扱われました。事態が急展開を見せたのは1990年代後半、元工作員の証言などから「めぐみさんが北朝鮮で生きている」という衝撃の事実が白日の下に晒されたことでした。