作品を深く履修していなかったにもかかわらず、なぜ『残酷な天使のテーゼ』の歌詞はこれほどまでにエヴァンゲリオンの世界観と奇跡的な合致を見せたのでしょうか。その鍵は、及川氏が企画書から直感的に抽出した「年若い少年と、彼を見守る年上の女性(母性)」という構図にあります。
象徴的なタイトルに含まれる「テーゼ(These)」は、ドイツ語で「定立・主張・命題」を意味する哲学用語です。及川氏はこの言葉を選んだ理由について、「難解な哲学書のような響きを持ちつつ、どこか冷徹で知的な語感が作品の企画書から漂う空気感にマッチした」と語っています。「残酷な天使の主張(命題)」というフレーズは、運命に翻弄される主人公・碇シンジと、彼を包み込む壮大な世界の残酷さを鮮烈に象徴することになりました。
歌詞中盤に登場する「ほとばしる熱いパトス」の「パトス(Pathos)」も同様に、ギリシャ語の「情念・受難」を意味します。及川氏は、思春期の少年が未知の世界へと旅立つ際の葛藤、そしてそれを見守る母性的な視線をあえて普遍的なポップスとして描くことで、アニメソングの枠を超えた「誰の心にも刺さる成長と旅立ちの詩」へと昇華させました。