晩年の淡路恵子を語る上で欠かせないのが、ゲーム史に残るほどの熱烈なドラゴンクエスト愛です。彼女が国民的RPG『ドラゴンクエスト』シリーズと出会ったのは60代を過ぎてからのこと。きっかけは家族とのコミュニケーションの一環でしたが、瞬く間にその深遠な世界観に魅了されていきました。
テレビ番組などに出演した際、淡路恵子は淡路恵子のドラクエに対する情熱をユーモア交じりに語り、視聴者を大いに沸かせました。「何百時間プレイしたかわからない」「睡眠時間を3時間に削ってレベル上げをしている」と公言し、特に『ドラゴンクエストVIII 空と海と大地と呪われし姫君』やニンテンドーDS専用ソフト『ドラゴンクエストIX 星空の守り人』には並々ならぬ執念を注ぎ込みました。新作の発売日には店頭に並び、すれちがい通信機能を使って一般のプレイヤーと地図を交換するなど、そのプレイスタイルは真のヘビーゲーマーそのものでした。
なぜ昭和の大女優が、これほどまでにゲームの世界に惹きつけられたのでしょうか。その背景には、人間の裏切りに翻弄され続けた過酷な半生がありました。淡路恵子は生前のインタビューで、極めて示唆に富む名言を残しています。
「ゲームはね、自分がかけた時間と愛情を絶対に裏切らないのよ。人間は裏切るけれど、ゲームのキャラクターは嘘をつかないし、努力した分だけ強くなって返してくれる」
夫の裏切りや信じていた親族・金銭を巡るトラブルを経験した彼女にとって、定められた論理と秩序で成立し、誠意に対して等しく応えてくれるゲームの世界は、傷ついた魂を癒やす唯一の安息の地だったのです。
その強い愛情の深さは、最期の旅立ちの場でも証明されました。2014年1月、食道がんのため80歳で逝去した淡路恵子の告別式において、出棺の際に親族の手によって棺の中に納められたのは、愛用のニンテンドーDS本体と『ドラゴンクエスト』のソフト数本、そして公式ショップ「ルイーダの酒場」のグッズでした。淡路恵子のドラクエ棺納棺エピソードは多くのゲームファンや芸能関係者に深い感銘を与え、シリーズの生みの親である堀井雄二氏も心からの追悼文を寄せています。あの世へ旅立つ瞬間の友としてゲームを選んだ彼女の選択は、自らの人生を他人に委ねず、自らの意志で選び抜いた純粋な愛の形でした。