横山の計画に従い、現場のビル屋上で自らの喉元に刃を当て、命を絶とうとする白井。現場に駆けつけたミコトが彼に向かって叫んだ言葉は、本作を象徴する屈指の名セリフとして刻まれています。
「あなたが死んで何になるの?」「あなたが死んでも、彼らは痛くも痒くもない。あなたの痛みを彼らは絶対に感じない」
さらにミコトはこう続けます。
「死んだやつは答えてくれない。この先もずっと。許されるように、生きなきゃいけないんだよ」
臨床心理学の観点から見ると、自死を復讐の手段に選ぼうとする心理状態には「自分の死によって加害者に一生の罪悪感を植え付けたい」という認知の歪み(破滅的願望)が存在します。しかしミコトは、加害者が他人の死に対してどれほど冷淡で忘却しやすいかを冷徹な事実として突きつけます。幻想を打ち砕くことで白井を正気に戻し、「復讐のために命を差し出す無意味さ」を直視させたのです。
過去に無理心中で家族を失い、「不条理な死」の理不尽さを誰よりも知るミコトだからこそ、その言葉には空虚な同情を排した圧倒的な説得力が宿っていました。