なぜハンコを斜めに押すのか。その由来を探ると、昭和後期の金融機関や証券会社で自然発生的に広まった独自の社内文化に行き着く。上司や先輩の捺印欄に向かって、部下が左斜め上にお辞儀をするように印影を傾ける。これが「相手への敬意や謙遜」を示すサインとして、一部の集団内で無言の了解となっていった。
形式主義が根深い組織では、この傾き一つが社内での評価を左右することすらあった。まっすぐ直立して押されたハンコは「生意気」「不躾」と受け取られ、評価査定や人間関係に波紋を広げたという。本来の法的効力とは何ら関係のない「社内政治の潤滑油」として、斜め捺印はいつしか暗黙の絶対ルールへと肥大化していったのだ。