歴史の記録において、箸が明確に登場するのは紀元前11世紀の古に遡る。殷王朝の最後の大王として知られる紂王が、贅沢の限りを尽くして象牙の箸を作らせたという逸話は有名だ。名臣・箕子はそれを見て「象牙の箸を使うなら、器も土器ではなく玉器を求めるようになり、やがて国が滅びる」と嘆いたと伝えられている。
中国の長い食文化史において、箸は元来、ぐつぐつと煮え立つ鍋から肉や野菜を掬い上げるための調理道具だった。それが時代とともに手元で使う食事器具へと変化を遂げていく。贅を極めた王侯貴族の象牙や銀の箸から、庶民が愛用した竹や木の箸に至るまで、2本の棒はあらゆる階層の生活に深く浸透していった。