ホセ戦の直前、物語の精神的クライマックスとして描かれたのが白木葉子の告白です。財閥の令嬢としてジョーをリングへ送り込み、同時に彼を破滅から救おうと苦悩し続けた葉子は、試合前の控室で「好きだったのよ、矢吹くん、あなたが!」と涙ながらに胸の内を打ち明けます。
しかし、ジョーはその愛を受け入れてリングを降りることは選ばず、「世界一の男がリングで待っているんだ」と静かに拒絶します。そして試合の最終盤、傷だらけのジョーは自らの両手から外したボクシンググローブを葉子に手渡します。
「これを受け取ってくれ。あんたに貰ってほしいんだ」という行為は、自らの命そのものであったボクシングの魂を、世界で唯一の理解者である葉子に託した瞬間でした。葉子にとっても、その後の人生を決定づける重い受容の儀式となりました。