横山大観といえば「富士山」だ。生涯に渡って描いた富士の数は2,000点を超えるとされる。なぜ彼はこれほどまでに同じモチーフに固執したのか。
「毎日表情を変える富士は、自分の心の鏡だ」と後に語っている。だが、今回の特別展で年代順に並べられた作品群を追うと、別の顔が見えてくる。若き日の富士はどこか尖り、挑戦的だ。一方で中年の作はどっしりと重く、晩年の富士はもはや形すら溶け出し、空間そのものと同化している。彼は富士山という圧倒的な自然を借りて、自分自身の孤独やエゴ、そして命の衰えと格闘し続けていたのではないか。同じ対象を何千回も描き直す行為は、写生を超えた一種の瞑想であり、狂気だった。