公式の否定があるにもかかわらず、なぜ九份を訪れた人々は確信めいた既視感を覚えるのだろうか。その最大の引き金となっているのが、細い石段が続く「豎崎路」に建つ名高い茶藝館「阿妹茶樓(アーメイツァーロウ)」である。
日が落ちると、建物の軒先に連なる無数の赤提灯が一斉に灯る。深い霧が山肌を覆い、湿り気を帯びた夜風が吹き抜ける中、木造三階建ての壮麗な建物が闇の中に浮かび上がる光景は、油屋の持つ妖しくも華やかな存在感そのものだ。ファセットのように重なる屋根の造形や、狭い階段を行き交う群衆の影が、観客の脳裏に焼き付いた名シーンと見事に共鳴する。人々が見ているのは単なる風景ではなく、自らの記憶の中にあるファンタジー映画の具現化そのものなのだ。