長年、本作をめぐっては兄・清太の行動に対する議論が絶えなかった。「なぜプライドを捨てて親戚の家にとどまらなかったのか」「妹を守るために社会と妥協すべきではなかったのか」という問いだ。しかし2026年の現代的視点においては、清太を単なる愚かな少年として切り捨てるのではなく、極限状況下で孤立を余儀なくされた若者の心理的悲劇として捉え直す見解が主流となりつつある。
社会からの隔絶を選んだ清太の手の中で、日に日に衰弱していく節子。その哀しい過程は、現代社会における社会的孤立やセーフティネットの欠如、孤独孤立問題とも薄気味悪いほど地続きだ。節子のつぶらな瞳が映していたのは、戦争という異常事態だけでなく、人間社会が牙を剥く冷酷な拒絶そのものだったのかもしれない。