作中のラストシーンにおいて、ポニョは母であるグランマンマーレの魔法と宗介の誓いによって、完全に人間の少女へと姿を変えました。水面から勢いよく飛び出し、宗介に抱きついてキスを交わす場面は映画史に残る名シークエンスですが、観客の関心はポニョが人間になったその後のふたりの人生へと向けられます。
ネット上やファンのコミュニティでは「崖の上のポニョのその後、ふたりは結婚したのか?」という疑問が長年にわたり議論されてきました。結論から述べると、スタジオジブリによる公式映像やスピンオフ作品の中で、成長したふたりの婚姻関係が直接的に描かれた事実はありません。しかし、物語の構造と宮崎駿監督の演出意図を深く読み解くと、極めてロマンチックかつ運命的なメッセージが浮かび上がってきます。
本作の下敷きとなっているのは、アンデルセンの名作童話『人魚姫』です。原作の人魚姫は王子の愛を得られず、最後は海の泡となって消滅してしまう悲劇の結末を迎えます。宮崎監督は『崖の上のポニョ』において、この古典的な悲劇を真っ向から覆しました。わずか5歳の少年である宗介が「魚のポニョも、半魚人のポニョも、人間のポニョもすべて好きだ」と全肯定したことで、ふたりは運命の呪縛を断ち切ったのです。
5歳のふたりにとって「結婚」という制度的な概念はまだ存在しません。しかし、生命の根源を分かち合い、世界の崩壊を食い止めるほどの試練を共に潜り抜けた経験は、一般的な幼馴染以上の絶対的な絆を形成しています。宗介の成長後も、ふたりは崖の上の家でリサや耕一に見守られながら共に育ち、やがて自然な形で生涯の伴侶となったと解釈するのが、作品が提示した最も自然で美しい着地点と言えます。