日本の夏の原風景を形作ってきた歴代の楽曲を振り返る際、外すことができないのがABC夏の高校野球応援ソングおよび『熱闘甲子園』のテーマ曲です。1980年代から1990年代初頭にかけては、番組独自の情緒的なインストゥルメンタルやフォーク色の強い楽曲が中心でしたが、2000年代以降はトップアーティストによる書き下ろし楽曲が定着し、音楽シーンのトレンドを牽引する一大プラットフォームへと成長しました。
2000年代初頭、ZONEの『secret base 〜君がくれたもの〜』(2001年)やスガシカオの『奇跡』(2006年・第88回大会)は、夏の終わりの儚さと球児のひたむきさを鮮やかに描き出しました。特に2006年は、早稲田実業と駒大苫小牧による決勝再試合という歴史的一戦が繰り広げられた年であり、楽曲が持つ哀愁と劇的な幕切れが見事に重なり合って視聴者の涙を誘いました。
続く2010年には、FUNKY MONKEY BABYSの『あとひとつ』が社会現象を巻き起こします。同曲のジャケットやミュージックビデオに当時現役のプロ野球選手だった田中将大投手が起用されたことも話題を呼びましたが、何より「あと一歩届かなかった夢」に寄り添うストレートな歌詞が、敗れ去った球児やその家族の心情と完璧にシンクロしました。熱闘甲子園のエンディング曲として流れるダイジェスト映像とともに、今なお高校野球史上屈指のアンセムとして語り継がれています。
2018年の第100回記念大会では、嵐の『夏疾風』(作詞・作曲:ゆず・北川悠仁)が爽快な風を甲子園に吹き込み、2019年にはOfficial髭男dismの『宿命』がリリースされました。『宿命』は、従来の「泥臭い努力」の文脈を洗練されたブラスロックへと昇華させ、選手たちが背負うプレッシャーや葛藤を「奇跡じゃなくていい、美しくなくていい」と肯定したことで、新時代の高校野球テーマソングの金字塔となったのです。