千尋を迎え撃つ湯屋の住人たちもまた、作品の屋台骨です。特に物語の根幹を担う主要3役の熱演は、劇場の空気を一変させる力を持っています。
ハク役の三位一体:醍醐虎汰朗・三浦宏規・増子敦貴
千尋を導く川の神・ハク。アニメーション版『天気の子』の主人公声優も務めた醍醐虎汰朗は、少年の儚さと神々しい涼やかさを絶妙なバランスで表現。一方、バレエ仕込みの卓越した身体能力を誇る三浦宏規は、マントを翻しての跳躍や着地の美しさが際立ち、空を飛ぶ白竜の残像を舞台上に描き出しました。そして長身でノーブルな存在感を放つ増子敦貴は、呪縛に苦しむ冷徹な表情と千尋に見せる包容力のギャップで新たな支持層を開拓しました。
湯婆婆/銭婆役:夏木マリという「生ける伝説」と朴璐美の凄絶
映画公開から20余年の時を経て、自らが声を吹き込んだ湯婆婆役として舞台に降臨した夏木マリ。劇場の奈落から巨大なパペット頭部とともにせり上がってくる瞬間、客席全体が息を呑む圧倒的な威圧感は本作の象徴です。「自分の声が劇場の隅々まで届く快感と、パペットとの格闘は生涯忘れられない挑戦」と語る通り、その演技は最早文化財の域に達しています。そして実力派声優・舞台俳優の朴璐美は、圧倒的な音圧と激情を剥き出しにした怪演で、夏木とはまた異なる骨太で情念深い湯婆婆を創り上げました。
カオナシ役:世界的ダンサー陣による「言葉なき孤独の具現化」
一言も意味のある言葉を話さないカオナシは、本作で最も身体表現が問われる役柄です。菅原小春や辻本知彦といった国際的ダンサーたちは、背骨の微細なしなりや重心の移動だけで、他者の欲望を吸収して肥大化する怪物の悲哀を表現しました。観客の背筋を凍らせるあの不気味な徘徊は、舞踊芸術としての極致です。