作品の根底に流れる最大の謎、それは「そもそもホルモーとは一体なぜ始まり、なぜ今も京都の大学生たちによって続けられているのか」という点にあります。物語の導入において、主人公・安倍が入部させられる謎のサークル「京都大学青竜会」は、一見すると何の変哲もないインカレ系レクリエーション団体を装っています。しかし、その実態は千年前の平安時代から続くオニ使役の儀式競技を代々引き継ぐ正統な後継組織でした。
京都は古来より、風水思想に基づく「四神相応(ししんそうおう)」の地として設計された都です。東の青竜、北の玄武、南の朱雀、西の白虎。この四方の方角を司る神霊の加護を受け、平安京の結界を保ち、都に溜まる邪気や怨霊を祓うための呪術的儀礼がホルモーの起源とされています。かつては朝廷の陰陽師や貴族たちが国家安泰を祈願して密かに行っていた秘儀が、時代の変遷とともに形を変え、近代以降は京都に拠点を置く4つの大学サークルへと託されることになりました。
その4大学とは、東の京都大学(京大青竜会)、北の京都産業大学(京産業玄武組)、南の龍谷大学(龍谷大朱雀団)、西の立命館大学(立命白虎隊)です。各大学のキャンパスが四神の方角と見事に一致している点は、万城目学氏の卓越したプロット構成力の賜物といえます。なぜ血統ある呪術者ではなく一般の大学生なのかといえば、20歳前後の若者が放つ過剰な生命力と、社会に出る直前のモラトリアム特有の「無駄な熱量」こそが、オニを顕現させ使役するための触媒として最も適しているからに他なりません。