かつて街を完全に支配していた三合会が衰退へと向かった転換点は、複数の歴史的要因が複雑に絡み合っています。最大の要因は、香港警察およびICAC(廉政公署)による徹底的な汚職摘発でした。
1974年に設立されたICACは、総督直属の独立機関として警察内部の汚職ネットワークを容赦なく解体しました。黒社会の資金源だった「みかじめ料」の徴収システムは、賄賂を受け取れなくなった警察の集中取り締まりによって崩壊。警察と裏社会が共謀する時代は完全に終焉を迎えたのです。
さらに決定打となったのが、1997年の香港返還です。中国政府は主権回復に先立ち、「愛国的な黒社会」という政治的懐柔の言葉を弄しつつも、治安維持に反する暴力行為に対しては極めて強硬な姿勢を取りました。中国本土の公安当局による「掃黒除悪(黒社会の徹底撲滅)」の監視網が広がるにつれ、街頭での大規模な抗争は不可能となっていきました。
そして裏社会の息の根を止める決定的な一撃となったのが、マカオカジノ利権の激変劇です。1990年代後半まで、マカオのVIPルームを舞台にした高額賭博仲介業「ジャンケット」は、三合会にとって最大の富の源泉でした。中国本土の富裕層をマカオへ案内し、信用貸しで賭けを行わせて回収するこのシステムは、年間数兆円規模の資金洗浄ルートとなっていたのです。
しかし2026年、最大のジャンケット事業者「太陽城集団(サンシティ)」を率いていた周焯華(アルビン・チャウ)が、違法賭博および犯罪組織結成の容疑でマカオ当局に電撃逮捕されました。2026年には懲役18年の実刑判決が確定し、巨額の資産が没収されたことで、裏社会を潤していたカジノ利権のパイプラインは完全に消滅しました。資金源を断たれた組織は、物理的な拠点を維持することすら困難になったのです。