軍産複合体(Military-Industrial Complex)という言葉は、決して陰謀論の類ではありません。1961年1月、米国の第34代大統領ドワイト・D・アイゼンハワーが退任演説において、自らの軍歴を背負いながら国民に向けて発した痛烈な警告に由来します。
アイゼンハワーは当時の公式演説原稿において、「私たちは、軍事機構と巨大な軍需産業の結合がもたらす影響力から身を守らねばならない。この複合体が不当な影響力を行使する潜在的危険は現に存在し、今後も存続し続ける」と言い残しました。第二次世界大戦の英雄が危惧した通り、冷戦から現在に至るまで、国防総省(ペンタゴン)、軍需産業、連邦議会、そして安全保障シンクタンクが織りなす「鉄の三角形」は肥大化を続けています。
この構造を経済学的に裏打ちしたのが、戦争特需による景気回復メカニズム、いわゆる「軍事ケインズ主義」です。有効需要の創出を公共事業ではなく軍事支出に依存する手法であり、1930年代の大恐慌から米国を完全に救い出したのはニューディール政策単体ではなく、第二次世界大戦による圧倒的な軍事動員でした。
平時において道路やダムを造りすぎればやがてインフラは飽和しますが、軍事装備品は他国との「脅威のインフレ競争」がある限り、どれだけ予算を投じても過剰になることがありません。敵対勢力が新兵器を開発すれば、それに対抗する防衛システムが必要となり、永久に予算要求の正当性が担保されます。政府が国債を発行して軍需企業へ巨額資金を流し込み、工場が立地する地方都市に雇用が生まれ、株主には配当が還元される――この甘美な景気浮揚サイクルこそが、軍縮を構造的に困難にさせている利権の深層です。