ダッコちゃん人形の誕生は、決して順風満帆な滑り出しではありませんでした。開発を手がけたのは玩具問屋のツクダ屋玩具(後のツクダオリジナル)であり、製造を担当したのが当時ビニール加工を手がけていた宝塚樹脂工業(後のタカラ)でした。1960年4月に発売された当初の商品名は「木のぼりウィンキー」。空気を入れて膨らませ、手足のカーブを利用して木や柱に抱きつかせるアイデア商品でしたが、発売当初は玩具店の店頭でほとんど見向きもされませんでした。
運命を変えたのは、当時の最先端カルチャーの発信地だった東京・銀座でした。銀座の街頭で若い女性が「木のぼりウィンキー」を腕に巻き付けて歩く姿が目撃され、その斬新なファッション性がテレビ番組や週刊誌で相次いで取り上げられたのです。マスコミが「腕に抱きつく可愛い人形=ダッコちゃん」と呼称したことで人気に火がつき、タカラ側も正式名称を「ダッコちゃん」へと変更。ここから昭和玩具史に残る一大狂騒曲が幕を開けました。
初代ダッコちゃんの特徴は、黒い軟質ポリ塩化ビニール(PVC)製のボディ、腰に巻かれた赤白のフリルスカート、そして何より見る角度によってパチパチと瞬きをする両目でした。この目には当時最先端技術だったレンチキュラー印刷(特殊な凹凸シート)が用いられ、命が宿ったかのような愛らしい表情を生み出していました。定価180円という子どもから若者まで手の届く価格設定も手伝い、全国のデパートには早朝から長蛇の列が発生。あまりの混雑に売り場のショーウィンドウが破損する事故まで報じられるなど、その熱気は凄まじいものでした。