脳の器質的な発達プロセスを追跡すると、三つ子の魂百まで 脳科学の真相がより鮮明に浮かび上がります。人間の脳は、3歳までに驚異的なスピードで成長を遂げます。
新生児の脳重量は約350〜400gですが、生後1年で約700〜800g、そして3歳頃には成人の約80%(約1,100g前後)にまで急速に増大します。この時期の神経回路では、神経細胞同士をつなぐ接合部であるシナプスが過剰に作られます。外界からのあらゆる刺激を吸収しようと、脳がアンテナを爆発的に広げている状態です。
そして3歳以降から思春期にかけて起きるのが、脳科学で「シナプス刈り込み(プルーニング)」と呼ばれる最適化現象です。日常で頻繁に使われる神経回路は太く強化され、使われない余剰なシナプスは効率化のために容赦なく刈り取られていきます。このシナプス淘汰のダイナミズムこそが、幼少期の家庭環境や言語刺激が基盤として定着しやすい理由です。
しかし、ここで極めて重要な見落としてはならない事実があります。脳の部位によって発達のタイムラインが全く異なるという点です。
視覚や聴覚、基本的な運動機能を司る感覚野は幼少期に早期完成を迎えます。一方、感情の抑制、将来の予測、道徳的判断、他者への共感といった「高次の人格的知性」を統括する前頭前野(Prefrontal Cortex)は、3歳どころか思春期を経て、20代前半から25歳前後に至るまで成熟が続きます。つまり、理性によって本能や衝動をコントロールする能力は、成人を迎える頃までダイナミックに可塑性(かそせい:自らを作り変える性質)を維持し続けているのです。
幼児期の脳は感受性期(クリティカル・ピリオド)であり、土台となる情動の反応パターンを刻み込みやすいのは確かです。しかし、完成された回路として固定化されるのではなく、その後の教育や経験によって前頭前野のブレーキとアクセルが後天的に配線されていきます。