逃亡を企てる者が最も安易に頼ろうとするのが国外脱出です。「海外で現地警察の目を盗んで数年間暮らせば、日本の時効が完成する」という目論見は、刑事訴訟法第255条第1項の条文によって完全に粉砕されます。
同条は「犯人が国外にいる期間」について、海外逃亡と時効停止を明確に定めています。出国審査を通過した瞬間に時効の砂時計は停止し、日本へ帰国して入国審査場を通過するまで時計が再開することはありません。この期間計算は、出入国在留管理庁の厳格な出入国記録(パスポート・顔認証データ)と連動しており、1日たりとも誤魔化すことは不可能です。
さらに見落とされがちなのが、刑事訴訟法第254条第2項に定められた「共犯者に対する時効停止」です。複数人で犯行に及んだ場合、仲間の一人が逮捕・起訴されると、逃走中の他の共犯者全員の時効進行が自動的にストップします。仮に1人が10年間海外を放浪し、共犯者が日本で長期間裁判を争っていた場合、逃亡者の時効は裁判が確定するまで永遠に止まり続けます。
14年11カ月余りにわたり整形容貌を変えながら逃亡を続け、時効成立のわずか21日前に逮捕された福田和子元受刑者の事件は、逃走と時効の真相を象徴しています。偽名を用い、全国の飲食店や寮を転々とする日々は、隣人の些細な視線やパトカーのサイレンに怯え続ける精神的拷問そのものでした。公の場で見せる表情の翳り、健康保険証すら使えず病気の治療も拒絶せざるを得ない極限状態は、人間としての社会的生存権を自ら放棄することと同義です。