物理法則を厳密に適用すると、ある興味深い矛盾が浮上する。可視光線のなかで最も波長が短いのは青ではなく「紫」である。レイリー散乱の計算上、紫の光は青よりもさらに強く散乱されるはずだ。それにもかかわらず、なぜ頭上の空は紫色に見えないのだろうか。
その鍵は、太陽光のスペクトル分布と人間の眼の進化にある。太陽から放射されるエネルギーは紫色の領域で強度が落ちるうえ、人間の網膜にある錐体細胞(赤・緑・青を感じるセンサー)は紫色の波長に対する感度が著しく低い。散乱された紫と青の混合光を受け取った脳は、高感度な青のシグナルを優位に処理し、爽快なスカイブルーとして知覚する。青い空は、物理現象と生体センサーの奇跡的な共同作業によって完成している。