『うる星やつら』最終章である「ボーイ・ミーツ・ガール」のクライマックスにおいて、読者が最も息を呑んだのは、諸星あたるの常軌を逸した意地でした。闇の世界の支配者・ルパによって連れ去られたラムを奪還するため、地球の命運を賭けた「鬼ごっこ」が再演されます。しかしラムが突きつけた条件は、「あたるが心から『好きだ』と言えば角を触らせる(=鬼ごっこであたるが勝ち、ラムも地球も戻る)」という極めてシンプルなものでした。
口先ひとつで地球も最愛の女性も救える状況下で、あたるは血反吐を吐きながら「言うもんか…!命を賭けても、言うもんか!」と絶叫します。この場面に対し、初見の読者や視聴者からは「なぜ素直に言わないのか」「身勝手すぎるのではないか」という疑問が噴出しがちです。
しかし、高橋留美子氏が過去の対談や手記で語った創作意図や、物語全体の文脈を精査すると、そこにはあたるという少年の崇高な矜持と独自の恋愛哲学が存在していたことが分かります。
あたるにとって、「好き」と口にすることは、単なる感情の伝達ではなく「ラムの支配下に完全に降る屈辱」を意味していました。日頃から浮気症を装い、ラムの電撃に耐えながら自由奔放に生きてきたあたるにとって、強制されたシチュエーションで発する愛の言葉は、本物の感情ではなく「取引の道具」に成り下がってしまいます。ラムに強制されて口にする「好き」では、これまでの二人の関係性すべてが偽りになってしまうことを、あたるは本能的に理解していたのです。