ゲーム業界の歴史を振り返っても、シリーズ初期の重要悪役を演じた声優が、のちに看板タイトルを背負う新主人公へ抜擢された事例は極めて異例です。中谷一博と『龍が如く』の歩みは、まさに作品の進化と重なり合っています。
2005年にリリースされた初代『龍が如く』で、中谷一博が演じたのは主人公・桐生一馬の無二の親友であり、のちに哀しき宿敵へと変貌を遂げる錦山彰でした。「人間が嫉妬と劣等感によって壊れていく様」を生々しく演じ切ったその声は、プレイヤーの心に強烈なトラウマと感動を刻み込みました。その後、前日譚を描いた『龍が如く0 誓いの場所』やリメイク作『龍が如く 極』でも錦山役を熱演し、同作屈指の人気キャラクターへと昇華させています。
大きな転機が訪れたのは、桐生一馬の物語が一段落し、シリーズが完全な世代交代を迎えた『龍が如く7 光と闇の行方』の開発現場でした。新主人公である春日一番のキャスト選定にあたり、開発陣は過去のしがらみを排除した厳正なオーディションを実施。当時の開発関係者や龍が如くスタジオ代表・横山昌義氏のインタビュー記録によると、数百名規模の候補者の中から「キャラクターシートの名前を伏せたブラインド審査」において満場一致で選ばれたのが、ほかならぬ中谷一博でした。
錦山彰という「過去の象徴」を深く演じた彼が、泥臭くも仲間を信じ抜く春日一番という「未来の光」を託された瞬間でした。『龍が如く8』でも日米欧の主要ゲームアワードで絶賛を集めたエモーショナルな演技は、技術的な巧拙を超えた、役者本人の生き様が宿った魂の叫びとして評価されています。