小正月である1月15日の朝、古くから食されてきたのが「小豆粥(あずきがゆ)」である。米と小豆を炊き込んだこの粥を食べる習慣は、中国の古い民俗誌『荊楚歳時記』に記された厄払い行事に端を発し、平安時代の宮中儀礼を経て庶民の暮らしへと浸透した。小豆の鮮烈な「赤」には、古来より太陽や生命力を宿し、魔物や疫病を退散させる強い力があると信じられてきた。
栄養学的な観点から見ても、小正月の小豆粥には先人の極めて合理的な生活防衛の知恵が見て取れる。正月のご馳走や酒宴が続き、酷使された胃腸をいたわる滋養食として機能するだけでなく、小豆に豊富に含まれるカリウム、サポニン、食物繊維は、塩分の過剰摂取によるむくみや便秘の解消を力強く後押しする。現在では、切り餅を加えて食べ応えを出したり、昆布出汁を利かせて薄塩で整えたりと、現代的なアレンジで楽しむ家庭も増えている。
さらに、1月15日を中心に行われる地域の代表的行事が「どんど焼き(とんど焼き・左義長)」である。神社仏閣の境内や河川敷、地域の広場に青竹や藁を組んだ櫓を立て、各家庭から持ち寄られた門松、しめ縄、前年の破魔矢やお札を積み上げて焚き上げる。立ち上る神聖な煙に乗せて、正月期間中に家々に滞在していた年神様を天へと送り返す儀式である。
東北地方に目を転じると、岩手県盛岡市の盛岡八幡宮では、極寒のなか晒し布に草履履きの男衆が練り歩く「盛岡八幡宮の裸参り」が毎年1月15日に行われ、無病息災と厄払いを祈願する。また、秋田県男鹿半島の「なまはげ」に代表される来訪神儀礼も、本来は小正月前後の節目に怠け心を戒め、災厄を祓う目的で地域を巡行していた。火を焚き、厄を祓い、粥を食す一連の行為は、過酷な冬を乗り越えて春を迎えるための共同体的な精神的リセット装置であったと言える。