多くの家庭で犬と猫が同じ空間で暮らすようになった現在でも、依然として根強く残る誤解が「尻尾を左右に振る=好意や歓喜の表れ」という解釈です。散歩から帰宅した飼い主を出迎える犬は、腰ごと全身を揺らしながらリズミカルに尻尾を振ります。これは群れ社会で生きるイヌ科特有の「敵意はありません」「服従し、再会を喜んでいます」という明確なコミュニケーションです。
しかし、単独狩猟生活を基本として進化してきた猫における猫と犬の尻尾を振る意味の違いは、生物学的な根源から対極に位置しています。猫が尻尾を左右に大きく振る際、体内では交感神経が優位になり、アドレナリンが分泌され始めている状態が大半を占めます。つまり、犬のような無条件の親愛サインではなく、「何かが気になって落ち着かない」「次の行動をどうすべきか迷っている」「これ以上干渉されたくない」という緊張や葛藤のサインとして現れるのです。
猫の専門誌や獣医師が発信する最新の臨床知見においても、猫が左右に尻尾を動かす挙動の約70%以上は、不快感や警戒、あるいは高い集中状態に起因していると報告されています。ご機嫌なときに猫が見せるのは、尻尾を真上にピンと垂直に立てて先端を少しだけ曲げながら近寄ってくる仕草であり、左右への振幅運動ではありません。この基礎知識を誤解したまま撫で続けると、突発的な噛みつきや引っかきによる外傷トラブルへ発展する危険があります。