菊田杢太郎が作中に初登場を果たしたのは、単行本第21巻(第202話「登別温泉」)です。日露戦争での激戦「奉天会戦」で全身に多数の銃弾を浴び、登別温泉で療養中の第七師団歩兵第27連隊所属の特務曹長として描かれました。同じく療養中だったアイヌの青年・有古力松(イポプテ)とともに鶴見中尉の金塊争奪戦へ合流しますが、その真の姿は大日本帝国陸軍中央(参謀本部)直属の潜入捜査官(スパイ)でした。
陸軍中央は、北海道を拠点に軍事政権の樹立を目論む鶴見中尉の不穏な動向を早くから察知していました。そこで、叩き上げの実力派であり冷静沈着な菊田に対し、第七師団の内部監視と金塊強奪阻止の特命を下したのです。菊田は鶴見中尉のカリスマ性に心酔した狂信的な部下たちとは一線を画し、常に客観的かつ冷徹に戦況を見極めていました。
しかし、相手は人心掌握と謀略の天才である鶴見中尉です。鶴見は菊田が中央の人間であることを早い段階で見抜いており、互いに相手の腹を探り合いながら偽情報を流し合うという、息詰まる心理戦が展開されました。組織の命令に従うスパイでありながら、決して冷酷になりきれず、戦友や後輩への情義を捨てきれなかった点こそが、菊田という人間の最大の魅力であり、同時に悲劇の引き金ともなっていきます。