昭和40年代から50年代にかけて巻き起こった空前の大相撲ブームの中心には、常に貴ノ花利彰がいた。端正な顔立ちと、見る者の胸を締め付けるような鬼気迫る土俵態度は、大相撲を単なる伝統競技から国民的エンターテインメントへと昇華させた立役者の一人である。
しかし、その栄光の軌跡は決して平坦なものではなかった。度重なる怪我と内臓疾患に苦しみながらも、彼は休場を極端に嫌い、痛み止めを打ち続けて土俵に上がり続けた。軽量ゆえに相手の圧力を真っ向から受け止めざるを得ず、その代償として肉体は悲鳴を上げていた。土俵で見せたあの涼やかな表情の裏に、どれほどの激痛と孤独が隠されていたのか。近年制作された数々の人物伝やスポーツドキュメンタリーでも、彼の自己犠牲に近い相撲道への献身が改めて克明に浮き彫りにされている。