野村昭子のキャリアの出発点は、極めて異色だった。薬科大学を卒業し、薬剤師国家試験に合格するという理系の才能を持ちながら、彼女が選んだのは演劇の道だった。1949年、新劇の殿堂として知られる『劇団俳優座』の養成所に第1期生として入所。同期には日本の演技界を支えることになる巨星たちが名を連ねていた。
科学的な観察眼と緻密な分析力。薬剤師としてのバックグラウンドは、役に命を吹き込むプロセスにおいても遺憾なく発揮された。理屈だけでは割り切れない人間の業や愚かさを、鋭い洞察で見抜く。徹底して計算された立ち振る舞いと、突如として放たれる爆発的な感情表現。そのギャップこそが、彼女独特の演技の源泉だったのだ。