なぜ素人の縫ったスナップボタンはグラつき、プロのそれはビシッと固定されるのか。その差は、糸の通し方と「力学的な締め込み」にある。東京・新宿に校舎を構え、長年にわたり日本のファッション界を支えてきた文化服装学院の講師陣やベテラン仕立て屋への取材で見えてきたのは、極めて合理的かつ無駄のない手順だった。
まず不可欠なのが、表地に糸目を出さないテクニックだ。生地の表面を貫通させるのではなく、織りの「厚みの半分」だけを針先ですくう。これにより、表からは縫い目が見えず、内側だけで強固に固定される。そして、ボタン穴に針を通した際、毎回糸をループ状にくぐらせるボタンホールステッチの要領で締めていく。単に糸を往復させるだけでは、摩擦で糸がゆるみグラつきの原因になるからだ。
さらに、対角線上の穴へと順番に針を進めることで、張力が均等にかかり、ボタンが生地に吸い付くように密着する。仕上げには、ボタンと布の隙間に糸を数回巻きつける「首巻き」を施す。このわずかな空間が、ボタンを嵌合させた際にかかる負荷を逃がすクッションの役割を果たし、長年の使用にも耐えうる圧倒的な耐久性を生み出すのだ。これぞまさに、伝統的な洋裁・手芸が到達した機能美の極致と言える。