研究者としてだけでなく、卓越した科学コミュニケーターとしても朝永は圧倒的な足跡を遺しました。物理学科の学生にとっての金字塔となっている教科書『量子力学 I・II』(みすず書房)は、単なる数式の羅列ではなく、過去の物理学者たちがどのような試行錯誤を経て量子力学の概念に到達したのかという「思考のドラマ」を克明に描いた傑作です。
また、晩年の名著『スピンはめぐる』は、量子力学最大の難所の一つである電子のスピン概念を、歴史的背景とともに極上の推理小説のように解き明かした不朽の書物です。岩波新書から出版された『物理学とは何だろうか』とともに、専門書でありながら文学的な薫りすら漂わせる文章は、世代を超えて読み継がれています。
朝永が子どもたちや後世に向けて遺した次の名言は、科学の本質を突いた言葉として広く知られています。
「ふしぎだと思うこと これが科学の芽です。よく観察したしかめ そして考えること これが科学の茎です。そうして最後になぞがとける これが科学の花です。」