政権中枢の肉声を収めた安倍晋三回顧録は、永田町の権力闘争が生々しく描かれた第一級の史料として読み継がれている。同書の中で明かされた自由民主党内部の派閥抗争や、かつての政敵たちへの冷徹な評価は、単なる歴史の記録にとどまらない。
かつて中道的なリベラル勢力から保守本流まで多様な言論を抱えていた自民党は、安倍政権の8年8ヶ月の間に一変した。官邸の「人事権」という絶対的な武器を背景に、内閣官房が強大な権限を握る「官邸一極集中」の統治構造が完成したのだ。
党内の異論は封じ込められ、党内民主主義は形骸化した。この強力な統治システムこそが政権の長期化を可能にした一方で、政治の多様性と自浄作用を奪う結果となったことは否めない。