都市部に住む人々の間で根強く信じられている誤解の一つに、「大都市圏やその近郊の県にはクマなどいない」という思い込みがあります。しかし、これは危険な認識不足です。
東京都は、奥多摩町、檜原村、青梅市だけでなく、八王子市の高尾山周辺に至るまでツキノワグマの定住域です。都心から電車で1時間程度のハイキングコースであっても、日常的に目撃情報や痕跡が報告されています。同様に神奈川県も、丹沢山地(清川村、秦野市、山北町など)に安定したツキノワグマの個体群を抱えており、相模原市の津久井エリアや宮ヶ瀬湖周辺では民家近くでの出没が確認されています。
ネット掲示板やSNSでは時折、「九州の山で黒い大きな獣を見た、クマではないか」という投稿が拡散され、議論を呼ぶことがあります。しかし、地元自治体や野生動物の専門機関が現地調査を行うと、その大半は「大型の野生化イノシシ」、あるいは「大型の野犬(アナグマ、ニホンカモシカの見間違い含む)」であることが判明します。先入観や恐怖心が錯覚を生み出すケースが後を絶ちません。
また、「沖縄にクマがいないのは暑すぎるから」という俗説も正確ではありません。アジアの熱帯・亜熱帯地域にはマレーグマが生息しており、気候だけが生息限界を決めるわけではありません。島嶼化の過程で大型哺乳類が渡る陸橋が早期に水没したという古地理学的要因こそが、沖縄にクマが存在しない根本的な理由です。