この感情の伝染には、明確な心理メカニズムが関わっている。中心となるのが「感情の転移」と呼ばれる心理作用だ。ある特定の人物に向けられた強い怒りや不快感が、その対象に結びついている無関係なオブジェクトや第三者へと移し替えられていく。職場で嫌いな同僚の雑談の声だけでなく、その人が好むコーヒーの香りまで不快に感じてしまうのは、この転移が起きている証拠である。
さらに、心理学で広く知られる「ハロー効果」も強く作用する。ハロー効果とは、対象の目立つ特徴に引きずられ、全体の評価が歪められる現象のこと。ポジティブな面が好評価を生むこともあるが、逆にひとつの欠点や不満が全体を悪く見せる「ネガティブ・ハロー効果」が生じると、相手の立ち居振る舞いや持ち物すべてが憎らしく見えてしまう。この二つの心理が組み合わさることで、嫌悪の連鎖は歯止めが効かなくなる。