ナツメグの毒性の核心にあるのが、精油成分に含まれる「ミリスチシン(Myristicin)」およびエレミシンなどの有機化合物である。体内に入ると代謝過程を経て、アンフェタミン類に類似した精神活性物質に変換されるとされる。この化学構造の類似性が、強力な幻覚作用と神経毒性をもたらす主要因だ。
ミリスチシンはモノアミン酸化酵素(MAO)を阻害する作用も持つため、体内の神経伝達物質のバランスを壊滅的に乱す。結果として副交感神経を麻痺させる抗コリン作用と似た強いせん妄状態が引き起こされる。薬理学的には「トリップ」などと呼べるような生易しいものではなく、化学物質による急性脳障害そのものである。